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ファリスという男***1
Ⅸ
「あ、あの。もうご気分は大丈夫ですか?」
マライカが目を覚ましたのはヒートになって4日後の夕刻だった。オレンジ色の夕焼けがほんのり紫色を帯びている。今はファリスの姿が見えず、ここにいるのはターヘルとマライカのみだった。
ターヘルは今朝方から付きっきりで傍にいてくれたのだろう、心配そうに顔を覗き込んできた。
「うん、ありがとう。もう平気だから」
「そうですか……」
ターヘルの言葉に返事をするマライカだが、声は掠れていて身体を動かすことが困難な状況ではあった。
それでもマライカが平気だと言わざるを得ないのは、自分が世間で言われているところの劣等種で有名なオメガで、今が発情期だと悟られたくないためだ。
弱々しく返事をするマライカの様子に、ターヘルはまだ悲しそうな表情を寄越すものの、少しは落ち着いてくれたらしい。天蓋付きのベッドにもたれ掛かるようにしてマライカの様子を窺っていた。
「でも、やっぱり辛そうです」
「平気だよ、すぐに治るから」
おそらくはこの三日三晩、ファリスには夜通し抱かれ続けたのだろう。身体は鉛のように重く、腰はこれ以上にないほど怠い。
おかげで意識が覚醒した今でさえもベッドから立ち上がることは愚か、上体を起こすこともできない。こうしてベッドにうつ伏せるばかりだ。
マライカが寝たきりになっているのはけっして体調が悪いのではい。発情期に差し掛かり、フェロモンで誘惑したファリスに延々と抱かれたからだ。しかし彼との一夜を口にできないマライカは、言葉を濁すしかなかった。
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