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ファリスという男***3
意識は朦朧としていたが、苦しく辛い感情を抱いたあの時のことはよく覚えている。
ファリスは、嫌悪の感情に苦しむマライカの頭を撫で、『美しい 』とまで言ったのだ。あれは絶対に夢ではない。
だって恋い焦がれた男性に告げられた言葉なのだ。聞き違いをするわけがない。況してやマライカの妄想や勘違いなんかでは絶対にないと言い切れる。
ファリスに美しいと言われたあの時、どんなに嬉しかったか。どんなに心が震えたか。もう二度とないと思っていた初恋の男性に逢えたと思った時、心も身体も歓喜に震えた。
だったらなぜ、彼はヒート状態の時にマライカを慰める言葉をかけたのだろう。初めてを奪った時は、どんなに泣き叫ぼうが喚こうが気にせず抱いたではないか。今さら宥める必要なんてない。
――それに、ヒート状態を抑制する薬をマライカに与えた理由も判らない。1週間は延々と続くオメガの生理的現象を、なぜ彼は放って置かず、今も自分に薬を飲ませているのだろう。オメガの薬は高価なものだ。人質ごときに大金を叩いてまで飲ませるものではない。
あまりの強烈なオメガのフェロモンに、さすがの彼も身の危険を感じたのだろうか。だったら鎖で繋いで地下牢に閉じ込めるなり、その辺に野放しにするなりしておけばいい。
そうなれば、きっと発情した自分は今頃、地下牢の見張り番や山賊たち――はたまた動物たちさえもフェロモンで誘惑し、抱かれ続けて狂っているだろう。
考えただけでも堪え難い。
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