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ファリスという男***12
ファリスが自分の身を案じてくれていると思っただけで、なぜ、自分の胸はまるで息を吹き返したかのようにこうも鼓動を繰り返すのだろう。
マライカは、オメガの性が大嫌いだった。おぞましいフェロモンは相手だけでなく自分も破滅へと追いやられる。この性に翻弄され、相手を誘惑するばかりの自分はなんと汚く、なんとおぞましい生き物なのか。自分は最下等の唾棄すべき存在だ。
それなのに……ファリスは発情期を迎えたマライカに、『大丈夫』だと告げて宥めた。
ターヘルの話によると、ファリスはまさしく英雄だ。自分が思っていた人物像とは明らかに違う。
どういうことだろう。どれを信じればいい?
ファリスに抱かれてからの自分はおかしい。彼のことを少し考えただけで身体が熱を持つ。
マライカはベッドの上で蹲り、両腕を身体に回し、包み込んだ。
「あの、ターヘル。ぼくがここに来る直前に何かを盗まなかった? ――たとえば積み荷とか」
マライカがターヘルに訊ねたのは、彼はもしかすると父親を襲った盗賊ではないのかもしれない。そんな考えが過ぎったからだ。
ターヘルは、『金持ちからのみ盗みを働く』と言った。もし、彼の言葉どおり、この集落に住む人々を助けるために盗賊という業を背負っているのならば、果たして誇り高い彼は一般人のベータである父が運んでいた積み荷を奪うだろうか。そのような悪逆非道な行為に及ぶとは到底考え難い。
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