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ファリスという男***13
マライカは今まで、ファリスこそが自分たち家族を不幸のどん底に追いやった加害者だと思っていた。
けれどもターヘルの話を聞く限りではファリスの行動が一致しないのだ。もし、彼が父親の積み荷を奪ったのでなければ――……。
マライカの見解が違っていたならば――……。
(ぼくは――……)
「積み荷、ですか? ハイサムはお金以外、簡単に足のつくような物を盗んだりはしませんけど……」
「それって?」
思っていたものとは違うまったく正反対の情報が入りすぎた。マライカの頭が真っ白になる。
「ターヘル、軽はずみなおしゃべりは慎めと言った筈だ」
マライカはターヘルから得た情報を整理するため、これで何度目になるだろう質問を繰り出そうとした直後だった。勢いよくドアが開いたと思ったら、ファリスが姿を現した。
彼は機嫌が悪いらしい。分厚い唇はいつにも増してへの字に曲がっている。
ターヘルを叱りつける声もずっと低音だ。
「も、申し訳ありません!」
主を不機嫌にさせてしまった。腰を上げて必死に頭を下げるターヘルに、ファリスは手を翳し、部屋から出て行くよう暗に告げた。
ターヘルはいつになく頭を垂れた状態だ。彼が尊敬している盗賊の頭に叱られたのだ、無理はない。
目を爛々と輝かせ、ファリスがどんなに誇らしい人なのかを語っていた彼の姿は今や跡形もなく消えている。小さな背中は丸まり、悲しそうだ。頭を下げながら部屋を後にした。
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