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ファリスという男***14

 可哀相なターヘル。  しかし今のマライカにはどうすることもできない。  身体が火照ってくる。  心臓が大きく鼓動して言葉さえも出せずにいるのだ。  しかし、この症状はけっしてヒートのものではない。  なぜなら、オメガのフェロモンで相手を狂わせるほどの感覚は一向にやってこないのだから。 「警察の真似ごとか? 人質にすぎないお前がいいご身分だな」  口角をひん曲げて意地悪そうに笑みを浮かべているものの、今のマライカに効果はない。  あるのは大きく高鳴る鼓動だけだ。  顔が熱い。  ファリスに自分の感情を知られたくなくて視線を逸らせば、長い足が歩いてくるのが見えた。 「食事は済ませたのか?」  ベッドの端に腰を下ろし、静かに口を開く。  その口調はマライカを嘲るものではない。 「食べたくない」  こうも心臓が震えていてはろくに食事もできやしない。  怖くもないのに震えてしまう。おまけにとても小さくて、ファリスが聞き取るのがやっとの大きさだ。 「――ということは、ヒートの薬もまだだな?」  ファリスはため息をつくと、マライカを抱き起こした。 「なにをっ!?」  突然抱き起こされたマライカは強ばりを見せた。  とにかく今の自分はおかしい。  力強い腕が身体に回されると、そこから伝わる体温でどうしようもないほどの熱が生まれるのだ。 「食べなさい」  マライカの抗議を聞き入れない彼は、サイドテーブルに置いてあるスープ皿とスプーンに手を伸ばした。  スープはおそらくターヘルが運んでくれたのだろう。スープはまだほんのり湯気が立ち込めている。彼は手にしたスプーンで掬い取った。

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