「ダールは、ファリスさまの妹君に目を止めたんです。ファリスさまの妹君さまはとても美しい方だと聞いています。ダールはどうしても手に入れたかったんでしょうね。ダールはファリスさまが絶対に返せない金利を突きつけました。そして妹君さまは連れて行かれたんです。だけど数ヶ月後、妹君さまは身を持ち崩して亡くなられたんです。きっとダールは妹君さまに、ぼくたちでは想像もできないくらいの恐ろしい要求をしたに違いありません！　可哀相な妹君さま……可哀相なファリスさま……」 　茶色い大きな目が揺れている。 「――なん、だって？」 　マライカは耳を疑った。 　信じられないのはダールの悪事ではないファリスのことだ。 　あの、いつも自信に満ち溢れた彼に限って、思い通りにならないことがあったなんて。他者を助けるために借金まで背負い込み、そのせいで妹を亡くしていたなんて――……。 「あの、マライカさまはファリスさまがお嫌いですか？」 「えっ？　ぼく？」 　突然、話を振られたマライカの心臓は飛び跳ねた。 　気がつけば、少年さながらの真っ直ぐな瞳がこちらをじっと見つめている。 「ファリスさまはマライカさまをお想いでいらっしゃいます。きっと妹君と同じように、ダールの元へ行って、不幸な目に遭わせたくないんだと思います」 「ファリスが……ぼくを、心配している？」 「はい」 　ターヘルの言葉をもう一度自分の唇に乗せてみる。 （ファリスはぼくを想ってくれている） 　……トクン、トクン。