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ファリスという男***10

あります」 「それ?」  マライカが聞き返すと、ターヘルはこくりと頷いてみせた。  ファリスがダールを狙う理由は他にもあるというのか。  ターヘルの言葉に、マライカは眉間に深い皺を作った。 「ファリスさまは、ばばさまたちのように、死の病にかかった人を救おうと、ご自身の持っているすべてのお金を差し出してくださいました。もちろんそれだけじゃ足りなくて、大金持ちのダールにもお金を借りて、どうにかぼくらの生計を立てていたんです。……ですが、その時はぼくたちもファリスさまも、ダールがどういう人間なのかを判っていなかったんです」  そこまで話すとターヘルの視線がふたたび落ちた。閉ざした口が苦々しげに歪められる。 「……ダールは目的のためなら手段を選ばない」  沈黙するターヘルの代わりにマライカが口を開いた。  その言葉に、驚いたのはターヘルだ。彼は目を瞬かせ、顔を上げた。  ターヘルもマライカがダールと深い関わりがあるのを知っているのだろう。まさか本人の口からダールの良くない噂話を聞くとは思ってもいなかったのだろう。  だが、生憎ダールは金持ちで有名で庶民の間でも話題は持ちきりだ。だから必然的にマライカの耳にも入ってくる。 「ダールはコレクターとして有名なのはぼくも知っている。そして目的の物をコレクトするためならどんな手段も厭わないっていうことも――」  マライカの言葉に、ターヘルはひとつ大きく頷いてみせた。

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