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ファリスという男***16

 二人はどちらからともなく、まるで目に見えない引力に引き寄せられるかのように唇が触れる。啄むような優しい口づけは、やがて少しずつ強くなっていく……。  マライカが引き結んだ唇を解けば、彼の長い舌が侵入を果たした。  彼の舌は巧みに動き、マライカの口内を蹂躙する。舌の先端を絡み取り、あるいは表面をなぞり、歯列を辿る。そうかと思えばマライカを塞ぐ唇が強く吸い付き、彼の舌は力強く動き回る。  身体中のすべてが焼けそうだ。  彼が動くそのたびに、マライカは甘い声を上げて彼の舌を感じやすいよう自ら口角を変えた。  マライカが発した甘い声音は彼の口内に消えていく……。  人質だとか盗賊だとか、どうだっていい。  二人は夢中になって貪り続けた。  とにかく今はマライカの肉体が彼を欲している。  ファリスの巧みな口づけに酔わされる。膝の上に乗っている華奢な腰が小刻みに動けば、彼の太腿の間に息づいているものを感じた。  身体が疼いて仕様がない。ヒート状態でもない自分はどうにかなってしまったのだろうか。  マライカは自らの後孔にファリスを誘い込みたくてたまらなかった。布を通じて感じる彼に訴えるため、小刻みに揺らして刺激する。腰の下で硬さを増す彼の姿に、マライカも反応する。  けれどもマライカの意図した出来事は起こらなかった。  接合していた唇が解かれたかと思えば、彼は自分の膝からマライカを下ろした。 「マライカ、だめだ」  掠れた声音で彼が言った。

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