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ファリスという男***17

 初め、マライカはファリスが何を言っているのか判らなかった。  二人が望んでいるものは同じだと、そう思ったのだ。  しかしどういうことか、ファリスは動こうとしない。 「こんなことを繰り返せば懐妊させてしまう可能性がある」  そこでマライカははっとした。  なんということだろう。自分はよりにもよってヒート状態でもないのにアルファを誘惑しようとしたのだ。子が身籠もることも考えず、ただ抱かれることだけを望んでいた。  ファリスの様子を窺えば、口元はへの字に引き結ばれ、表情は固い。 「ぼ、ぼくは――……」  マライカの視線が落ちた。  恥ずかしい。これでは男娼そのものだ。  これだからきっとファリスも自分のことを玩具のように考えたのかもしれない。再会を果たした時に組み敷いたのだって、マライカのそういう卑猥な素質を見抜いたからに違いないのだ。  淫らな自分が嫌になる。唇を噛みしめれば、骨張った指がそっとなぞった。  たったそれだけなのに、なぜだろう。涙が溢れてくる。   「お前の悪い癖だな。そうやって唇を噛みしめるのは――」  ファリスは自分のことを玩具として見ている筈だ。  彼は父親になることを望んでいない。  だからこそ、マライカが懐妊するのを彼は恐れている。  彼にとって、マライカはただの退屈しのぎ。遊び相手。  オメガが珍しいから組み敷いただけ。  それなのに、なぜ、彼はこんなにも優しく自分に触れてくるのだろう。  マライカは小さく首を振った。  自分がいかに淫乱なオメガなのかを思い知らされる。

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