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ファリスという男***19
それ以上に、初めてヒートを経験した時に優しい言葉のひとつでもかけてもらえて心が安らいだのも、すべては恋のせいだ――……。
「マライカ?」
彼の言葉に反応して顔を上げれば、ほんの少し驚いた表情を見せた。
顔が熱い。自分はいったい今、どんな表情をしているのだろう。
判らない。
その中でも思うのは、ファリスがいかに魅力的な男性かということだ。
半ばぼうっとしながら見つめていると、彼の手が後頭部に回った。
何度目の口づけだろう。ファリスがマライカの口を塞ぐ。マライカも負けじと彼との口づけを深く味わった。みぞおちが熱を帯びる。互いの唇を吸い合うリップ音と、マライカの甘い声が耳孔に響く。
ほんの少しの間、彼の唇が離れた。そしてふたたび口づけられる。同時に何か苦いものを注ぎ込まれた。
ヒートの抑制剤だと知ったのは、今朝もこの薬を飲んだからだ。
マライカが嚥下するのを見計らったかのように、彼の唇が離れた。
まるで業務をこなすかのような一連の作業に、マライカは違和感を感じた。
ファリスと自分と距離が生まれ、やがて新鮮な空気が送り込まれると、恍惚としていた頭が少しずつ冴えていく……。
彼はどんな時でも自分というものを心得ている。ハイサムの頭であり、自分がアルファであるという事実。そして目の前にいる相手はヒート状態のオメガで、自分の子を宿す危険性があるということを――。
一方のマライカは、といば、ファリスとの口づけに酔い、オメガという自分さえも忘れ、ファリスとの口づけに没頭していたのだ。
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