90 / 178

ファリスという男***20

 彼はマライカといても感情を乱すことはない。  それがどういうことかはよく判る。  つまりは、マライカにヒートという甘い誘惑するフェロモンに充てられているだけで、彼自身はマライカを何とも思っていないということだ。  ファリスに恋をしているのは自分だけ。  口づけも、ただフェロモンに流されてしたことにすぎないのだ。  恋心を今さら知ってどうなるというのだろう。  彼はもう二度と自分を抱かないつもりだというのに――。  マライカは、ファリスが今何を考えているのかを知りたいと思った。  けれども彼はハイサムの頭で自分は人質にしかすぎない。だからマライカは、話の内容を変えることにした。 「ファリス。お願い、ぼくはどうなっても構わない。捕虜のまま囚われてもいい。人買いに売られても構わない。だけどひと目。ほんの少しの時間でいいから、両親の顔を見たいんだ」  もし、ターヘルが話したファリスの過去が真実であるならば、ダールは恐ろしく悪辣な人間だ。自分がハイサムに囚われ、思い通りに事が運んでいないことに腹を立て、逆上して両親をどうにかしてしまうかもしれない。  2人が無事ならそれでいい。親の安否をどうしても確かめたい。  その後は何だってする。 「だから!」 「それはできない」  マライカの必死の懇願も、けれどもファリスは首を縦に振らなかった。 「お願い、ファリス!」  尚も食い下がるマライカだが、彼は無言のまま腰を上げるだけだった。 「お願いです。約束する。絶対にハイサムから逃げようとはしないから! だからどうか!」

ともだちにシェアしよう!