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ファリスという男***21

「くどい」  必死になって話すマライカの言葉も虚しく、ファリスは聞く耳を持たない。 「言っておくが、ここからは逃げられない。仮に逃げ出せたとしても何処に居ようが必ずお前を探し出す。無駄なことは止めるんだな」  それは冷淡な口調だった。彼はマライカに何の執着も起こさない。振り返ることもせず、部屋を出て行ってしまった。  ――やはり彼は自分に対して執着を持っていない。ヒートを抑える薬も手に入った以上、もうマライカを抱かないつもりだ。そう思った時、頭の片隅に自分ではない誰かを抱く光景が過ぎった。  きっとこの有能で美しいアルファは、この後に欲望を満たすべく、マライカに代わる人物を見つけて抱くに違いない。  彼はマライカを心配するような口ぶりだったが、実際のところは違う。子を孕むリスクしかないオメガを抱く筈がない。  どこまでも満たされることのない貪欲なオメガは穢らわしい。  抱くのなら、いつ身籠もるかも判らないオメガよりも、いくらでも抱ける相手の方がずっといい。そして彼は、自分よりも従順で可愛らしい人を抱くに違いない。――たとえば、そう。ターヘルのような純粋で愛らしい子を……。  そう考えた時、マライカの胸に痛みが走った。  どんなにも強固なオメガのフェロモンを以てしても、好きになった男性に抱かれることはない。  オメガは誰であってもヒート状態になればたちまち強烈なフェロモンを発し、相手を誘惑する。その唯一の利点さえも、ファリスには無意味だ。  そんな煩わしいばかりのオメガを、育ててくれた両親には恩を仇で返してしまう。自分はなんと惨めで、なんと親不孝者だろう。  ひとりになったマライカは咽び泣いた。 《ファリスという男・完》

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