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たとえこの身が引き裂かれても。***1
ⅩⅦ
「おめでとうございます。7週目ですね」
男性医師は聴診器を取り外し、丁寧に鞄に仕舞うなり、眼鏡越しから目を細めてにっこり笑った。
医師の言葉を聞いたマライカは頭が真っ白になった。ぐったりとベッドに身体を預け、目を閉ざす。頭上では医師が去るまで両親とは何やらやり取りをしていたが、マライカは何も聞く気にはならなかった。
ダールの宮殿でファリスに助けられた直後、王宮の兵士が乗り込み、ダールたち一行を脅迫と殺人未遂の罪で拘束した。マライカはダールから解放され、無事両親の元に帰った。
こうしてダールの元へ嫁ぐ前の日常に戻されてから1ヶ月が過ぎた。ダールの宮殿で離れてからファリスとの連絡もなく、時間だけが刻々と過ぎていく。
『君は自由だ』
ファリスに告げられたとおり、マライカは自由の身になった。なのに、ファリスと離れてからのマライカは魂が抜けた人形のように感じていた。
視界は薄れ、あんなに帰りたいと思っていた自分の家なのにもの悲しい雰囲気に見えるのはなぜだろう。
ひとりになれば自然と涙が込み上げてくる。
目を閉じればいつだってファリスの顔が浮かび、そして消えていく……。
手を伸ばしてもけっして届かない彼は今、何をしているだろう。
力強い腕を思い出す夜は最悪で、彼が見知らぬ綺麗な女性を抱いている夢を見るのは一度や二度だけではなかった。
そんな悶々とした日々を過ごしている矢先に、自分は懐妊してしまった。
誰との間にできたのかはもう判っている。
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