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たとえこの身が引き裂かれても。***2

 だって抱かれたのはただひとり。ハイサムのファリスしかいないのだ。  おかしいと思ったのはほんの1週間前だ。身体はやけに熱っぽいし怠さが残っている。そして決まった周期でくるはずのヒートは遅れていた。見かねた母はこうして自宅に医師を呼び、診察して貰えばこの有様だ。  マライカはブランケットの中で腹部を抱きしめる。 「……父親は誰だ」  普段、温厚な父、セオムはベッドに沈んでいる息子を見下ろし、声を荒げた。マライカと同じく、彼もまた激しく動揺しているのだ。それから彼ははっとした。 「まさか!」 「ダールじゃない!」  セオムの言わんとしていることを悟ったマライカは直ぐさま否定した。 「ではいったい誰だというの?」  母のメイファは悲しそうに跪くとマライカにそっと訊ねた。  ファリスを悪く言われたくないマライカは口を閉ざし、それっきり黙り込む。  子供ができたのは1ヶ月前。ダールではないということはつまり、息子が盗賊に拘束された期間にある。マライカが父親の存在を口にしないことにも合点がいった。 「ハイサムの中にいるのか?」  セオムが訊ねても、マライカは唇を噛みしめたまま微動だにしなかった。それを肯定ととった彼は両拳を強く握り締めた。 「ハイサムの中にいるんだな!!」  言うなり、大股で部屋を出て行った。ドアが大きく音を立てると部屋の壁が振動し、掛けてあった丸い時計が傾いた。 「きっと彼ね……」  静かになった空間に、メイファはそっと口を開いた。

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