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たとえこの身が引き裂かれても。***3
彼女はマライカの震える手を彼女は華奢なその手でそっと包み込み、手の甲をぽんぽんと叩く。マライカを宥める彼女の仕草はいつだって目頭を熱くさせる。
「狼に襲われそうになっているマライカを助けてくれた男性でしょう? ……彼に知らせないと……」
「ダメ! 迷惑をかけたくない」
メイファの言葉にマライカは身体を起こし、身を乗り出して首を振った。
「マライカ……」
「お願い、このことは誰にも言わないで! お腹の子は責任を持ってぼくが育てる。だから!!」
マライカは母親の手を握り返し、自分と同じ目の色を持つはしばみ色を見つめた。
どうか他言しないでと、無言で懇願する。
「……わかったわ。彼、素敵な男性ね」
メイファはマライカの性格をよく知っていた。だからこれ以上説得しても無駄だということを理解していた。静かに息を吐き、肩から力を抜くと、また口を開いた。
マライカの反応からして、彼にどれほど好意をもっているのかはよく判った。なにせ自宅に帰ってからというもの、マライカはふさぎがちになっていてた。泣く姿は見せまいと頑張っているらしいが、瞼が赤く腫れていることから、夜通し泣いていただろうことも察しがついている。
彼女の言葉に、マライカは頷いた。
「いつもぼくがピンチになったら助けてくれるんだ。王子様みたいな人……」
少しでもファリスを思い出せばマライカの唇が孤を描く。
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