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たとえこの身が引き裂かれても。***4

 思い返せばいつだってそうだった。  酒場で酔っぱらいに絡まれた時も、初めてのヒート状態で苦しんでいた時も、そしてダールに囚われ狼に襲われそうになった時も――。気がつけばいつだって彼は誰よりも真っ先に駆け付け、助け出してくれた。 「愛しているのね、その人を」 「……あの人の為ならたとえこの命を差し出したってかまわない……ぼくのために犠牲になってほしくないんだ」  たとえ抱かれたとはいえ、マライカはヒート状態だった。  ファリスを誘惑したのに変わりない。自分がオメガでなければ――ヒート状態でなければ、抱かれても身籠もることもなかった。  そもそも囚われた当初にファリスが自分を抱いたのは、卑しいオメガがどれほどのものかを知りたいがためのものだったのだろう。だから彼は初めてマライカを抱いた時に侮辱し、貶めるような言い方をしたのだ。  けれどファリスは優しいから、泣いている自分を放っておけなくて、『美しい』などという甘い言葉を囁いた。  囚われた当初は信用こそしていなかったが、今なら彼がどんなに責任感のある人なのかよく判る。きっと彼なら、マライカが身籠もったと伝えれば父親になってくれるだろう。ファリスならマライカに寄り添ってくれる。  けれどもマライカは子供を理由にしてファリスを縛りたくはなかった。  自分はオメガで彼はアルファ。  自分が彼に見合う器ではないことは十分理解している。  そしてアルファの中でもファリスは特別な存在だ。気高い騎士。彼こそがそう呼ぶに相応しい。

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