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たとえこの身が引き裂かれても。***5
そんなファリスには自分なんかよりももっと高貴な人間が釣り合う。例えば異国の王女とか、身分あるもっとも可憐で優雅な女性。
だからこそ、マライカはファリスには二度と会わないことを心に誓った。
――それに、ファリスだっていい迷惑だ。卑しいオメガを抱え込みたくはないだろう。その証拠に、彼はマライカから一切手を引いた。ダールの宮殿での別れ際の口づけもただ薬を飲ませるための機械的なものだった。
ファリスだって今頃はマライカと離れられて清々している筈だ。女性を口説いているかもしれないし、もうずっと先の行為にまで進んでいるかもしれない。
その光景を想像しただけでも胸が苦しくなる。
けれど身を引き裂かれそうなくらい胸が痛くなるのは自分だけ。彼はただ、マライカとの情交を事務的に行っていただけにすぎないのだ。
たとえ、この身が引き裂かれそうに痛んだとしても、ファリス・フラウとはもう二度と会わない。
「この子はぼくひとりで育てる」
マライカは溢れてくる涙を飲み込んで、自分に言い聞かせるようにして静かに告げた。
《たとえこの身が引き裂かれても・完》
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