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もう二度と。***4

 常に威厳に満ち、何者にも屈することのない力強いハイサムの頭領ファリス。その彼が、時期に死を迎えることなど誰が信じられるだろうか。  今話していたことは噂に過ぎないと言ってくれることを願い、首を振るマライカに、しかし客は鼻の穴を大きく膨らませ、自信たっぷりに言い放つ。 「嘘じゃねぇって。だってほら、この記事見ろよ」  未だ信じられない内容に、客のひとりが懐から一枚の文書を取り出した。そこにはハイサムを捕らえたことと、公開処刑の日時が書かれている。 マライカはあまりのショックな出来事に全身に力が入らず、その場から崩れ落ちた。 「お、おい。大丈夫か?」 「マライカちゃん、大丈夫? 顔色が真っ青よ? あとはあたしが引き継ぐから、もう帰りな?」  マライカの異変に気がついた同僚の給仕が駆けつけた。彼女はこの酒場で同期で入り、マライカとはすっかり打ち解けた間柄だった。ダホマの酒場でマライカが身籠もっていることを知っているのは店主を除いて彼女だけだ。しかし、マライカは彼女にお腹の子の片親がハイサムの頭領だとは話さなかった。だから彼女はマライカの顔色が優れないのはつわりを起こしているからだと思ったのだろう。背中を丸めて身体を震わせるマライカにそっと話しかける。  彼女は店主と掛け合い、帰宅を許された。しかし、マライカが向かったのは家ではなかった。気がつけば木々を横切り、スーリー砂漠の入り口までやって来ていた。

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