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ぼくのすべてを貴方に。***2
「父さん、どうしてファリスが処刑になることを教えてくれなかったの?」
マライカは太腿に置いている両手を握り、顔を上げてセオムに問うた。
「なんですって?」
マライカの問いに驚いてみせたのはメイファだ。顔色が真っ青になっている。彼女もまた、ファリスの身の上を今初めて聞いたようだった。しかし、メイファの隣で腕を組み、仁王立ちをしているセオムは違った。彼は顔色ひとつ変えずにマライカと対峙している。
――やはり、セオムはファリスが処刑されることを知っていたのだ。
たしかに、セオムは王宮を出入りしている。兵士の会話なども耳に入るだろう。しかし、それにしても大切な実の息子に――しかも身籠もっている子供の父親の行く末を教えないとはどういった魂胆なのだろうか。
子供を持つ親の立場なら、大切な伴侶がこの世から去っていく悲しみを想像できない筈はない。
「急に何を言い出すんだ」
「父さん! はぐらかさないで!」
はぐらかそうとする父親に、マライカは噛みついた。
ファリスの一件をそうまでしてマライカに話さない理由はただひとつ。いくら自分たちの命を救ってくれたとはいえ、彼はファリスが気に入らないのだ。
マライカの鋭い剣幕に、ようやくセオムは観念したのか。小さく首を振り、口を開いた。
「盗賊は――ハイサムは王に弓引く逆賊だ。当然、王宮に召し抱えていただいているわたしにとっても、敵にすぎない」
その言い方は、まるでセオム自身に言い聞かせているようだった。
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