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謁見。***1
ⅡⅩ
翌日、セオムはマライカと約束を交わしたとおり、ワーリー王との謁見が許された。しかし、皮肉なことに、謁見はファリスの処刑当日という危機的状況に陥ってしまった。
時刻は午後2時。聞くところによると処刑は午後3時に行われるという。もう時間がない。どうにかしてワーリー王を説得し、処刑だけは取り止めて貰わねばならない。マライカは焦る気持ちを抑えることができない。宮殿に行き交う兵士はやはりともいうべきか、ハイサムの頭領ファリスの処刑の噂話で持ちきりだった。彼らはようやくこの地が平和になると安堵のため息をこぼし、口々に会話していた。
彼らの多くはファリスを誤解している。ファリスがどれほどの情に溢れた人間なのかを知らない。そして王もまた、ファリスという人物を知らないのだ。
王にはファリスがいかに優れ、情に満ちた人間であるかを知ってもらわねばならない。兵士と擦れ違うものの、マライカは礼儀も忘れ、足早に謁見の間に急いだ。
分厚い扉に閉ざされた広間の先では玉座がたったひとつ配置してあった。
マライカはセオムのやや後ろで膝を折り、固唾を呑んで王が玉座にやって来るのを待つ。
「マライカ・オブレウス。余に話しがあるとのこと。面を上げよ」
衣が擦れる音と共に、大広間で男性特有の低音が響き渡る。四つの足音が聞こえてきたから、おそらくは最も信頼する従者と王本人なのだろうことは想像できた。
王の声は威厳に満ち、広間中に澄み渡る。空気がぴりぴりと振動するようでもあった。
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