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謁見。***2

 それは上に立つ者の証なのか、はたまたワーリー王のみが持った、神に選ばれし資質なのか。よくは判らないが、ひとつ言えるのは対峙しているだけでもマライカの背筋に緊張が走っているということだ。当然、顔を上げることなどできず、床に添えている手は震えはじめる。  ――ファリスがいかに優しい存在であるか。  ――処刑を考え直してほしいこと。  マライカには王に伝えるべきことが山ほどあった。それなのに緊張に何も言えず、言葉を詰まらせたまま唾を飲み込む。  早くしないとファリスの処刑が始まってしまうのに、思っていることのひとつも言えない。そんな自分が腹立たしい。王を前にして何も言えない悔しさと、愛している人の命を助けることができない悲しみがマライカの心を蝕む。あまりにも惨めで、胸が苦しくなる。マライカの瞼が熱を生み、自然と涙が込み上げてきた。  今にして思えば、牢破りを決行したファリスの決断力と王に刃向かう勇気がどれほどのものだったのかを深く理解できた。そしてそれらを実行した彼は誰よりも正義感溢れる、気高い騎士であるのだとあらためて考えさせられた。  それに比べて自分はどうだろう。  ただ王に話をするというだけで怯え、震えるばかり。彼が為し得たことの一歩も及ばない。  こんな筈ではなかった。  ただファリスがいかに優れた人物であるかを王に伝えたいだけなのに、それさえもできない自分が情けない。セオムはマライカに話すよう促すが、マライカは言葉に詰まるばかりで口を閉ざす。  めそめそ泣いているだけの自分にも腹が立つ。

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