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謁見。***4
そしてもし、見目麗しい子供がいれば、乱暴されていたかもしれない。
けれど心を亡くした自分は抵抗することもできず、奴隷のような生活を送っていただろう。 だが、実際は違った。
マライカはファリスと出会ったことで恋を知り、愛を知った。
立ち向かう意思の大切さや思いやりも――今思えば彼がすべて教えてくれた。
「ファリスはぼくの命。ぼくのすべてなんです!」
なぜ、もっと早く気づかなかったのだろう。これほどまでにファリスを深く愛していた。もっとたくさん、彼のぬくもりを刻むべきだった。そして思いの丈を伝え手いれば良かった。狼から助けられたあの時、愛していると言えば良かった。
そうすれば、もしかすると少しは何かが変わっていたかもしれなかったのに――……。
マライカの涙袋に溜まった涙が幾数もの筋を作り、頬を伝う。
王にマライカの気持ちを理解してもらうため、伏せていた顔を上げれば、涙で視界が歪み、何も見えなかった。
「ワーリー王、どうか、どうか……」
マライカの声が震えて発することができない。ただ嗚咽を漏らし、泣きじゃくるばかりになってしまった。
こんなことではファリスは救えないと思えば思うほど、涙が込み上げてきてしゃくりばかりが口から飛び出す。
「王よ、わたしからもお願いです。彼を釈放してください」
少し前からセオムの声が聞こえた。
父親はたしかにマライカとファリスの仲を許していなかった。
それなのに、セオムもマライカ同様頭を下げ、王に願い出た。
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