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謁見。***5
「父さん……」
「わたしが間違っていました。世間体なんてどうでもいいのです。大切なのは我が子の幸せ。この子は罪人の釈放を望んでおります。どうか、どうか!!」
「王様、どうかお願いします」
それはとても長い沈黙のように感じた。
沈黙を消したのは振り子時計の音だ。
午後3時。
処刑の時刻を過ぎたのを知らせていた。
「ハイサムの処刑の撤回はできぬ! 刻限は過ぎた。奴はもうこの世にはおらぬ」
王の声が頭の中で大きく響いた。耳の奥で鈍い低音が轟く。それは絶望の音だった。
「なんという……」
ぽつりとセオムが呟く。
「そん、な……」
マライカの視界が歪み、平常心を保てなくなった。
「ファリスが、死んだ……」
その瞬間、マライカの身体が崩れ落ちた。頬に伝う涙は止まらない。視界は一気に色を失い、それはまるで、全重力が自分に注がれているような感覚だった。
今のマライカにとって、自分がいる場所がどこで、誰の前だろうがどうでも良かった。
ただ、愛しい彼がこの世から去ってしまったことだけしか判らなかった。
《謁見・完》
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