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王宮の兵***1
ⅡⅩⅡ
「ワーリー王、悪ふざけもそこまでになさってください」
彼は王をたしなめた。
マライカも、セオムも、そこにいる誰しもが絶望と深い悲しみを抱いていた。重い沈黙が辺りを支配する中、それを打ち消したのは王の側近であるひとりの兵士だった。彼の声は男性特有の低音だが澄んでいる。
兵士の言葉は王に相応しくない言い方ではあった。しかし王は差して気にするでもなく、ひとつ咳払いをしてその場に広がる空気を打ち消した。
「盗賊の首領はおらぬ。――が、王宮の兵士ファリスならおる」
王の言葉に耳を疑ったのはマライカとセオムだ。ファリスはたしかに処刑され、死罪になったと告げられた。それなのに、彼はいるという。これはいったいどういうことなのか。
「ファリスを此へ」
王が兵士に伝えると、彼は一礼してから背後にあるドアを引き、ひとりの人物を招き入れた。
マライカは瞬きを繰り返し、目に溜まった最後の一滴が手の甲に落ちたと同時に顔を上げた。そしてやって来た新たな人物を目に写したその時、自分を疑った。
そこには白のカンドゥーラに身を包んだ長身の男性が立っているではないか。この世にはもういないと思っていた彼が――ファリスがマライカのすぐ目の前にいた。
「ファ、リス……」
「なんと!」
てっきり彼は処刑されたと思っていた。それはマライカやセオム親子だけではない。地元の者たちも皆口々に声を揃えて公開処刑されると言っていた。しかし目の前に彼はいる。
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