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王宮の兵***3
王は続けた。
「ダールを見張っていたのだが、奴は巧妙に手法を変えてなかなか尻尾を掴むことが困難だったのだ。それが今の今に至り、その為にダールの火の粉がお主たち親子にも飛び移って恐ろしい体験までさせてしまった。――ジェルザレードの民たちにも申し訳ないことをしたと思うておる」
「恐れ多い、どうかお顔を上げてください」
王は頭を垂れ、謝罪するとセオムは慌てた。
マライカは想像していなかった展開だけに何も言えず、ただただ口をぽかんと開けるばかりだ。
「俺の子を身籠もっているのか?」
ファリスがまた一歩、マライカに近づくとそっと訊ねた。
「いいえ、いいえ! 違います」
マライカは訊ねられた言葉にはっとした。慌てて首を振り、否定した。
これから先もう二度と会わないと思っていたからこそ、自分が身籠もっている事を両親以外の人間に告げたのだ。まさか本人が聞いていたとは思いもしなかった。
マライカは自分の軽はずみな行動が彼の人生を変えてしまうことを恐れた。
もし、ワーリー王の言うことが本当であるならば、ファリスには将来が約束されているも同然だ。彼には華々しい未来がある。年若い美しい女性を妻に迎えて可愛らしい子供たちに囲まれ幸せな家庭を築く。
しかしそれを今、マライカが壊そうとしているのだ。誰よりも責任感と強い意思を持った彼に子供がいると知ればどういう行動に出るのかはもうすでに判りきっている。
マライカを引き取り、子供を育てるに決まっている。そうなれば、約束された未来も華々しい家庭も築けない。
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