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囚われの身***4
その表情は肉食獣のようだ。獲物を狙い定める時のものと同じだった。
マライカを見る視線は突き刺すように鋭く、以前ダホマで出会った時とはまるで違う。目の前にいる男は本当にマライカを助けてくれた彼と同一人物なのかと疑うくらいに……。
「お前が……盗賊の頭だったっていうのか!?」
(初恋の男性が盗賊の――しかも大盗賊ハイサムの頭だったなんて!!)
これは思いも寄らない裏切りだ。
そこで思い出したのは、父が運んでいた積み荷を盗賊に奪われたという事実だ。もしかすると、この男が配下たちに命じて父親の積み荷を奪わせた可能性もある。
盗賊という存在がこの世にいなければ――。
この男さえ、父親の積み荷を奪わなければ自分はダールに嫁ぐこともなく、この男の正体も知らず、恋心を秘めたまま暮らせていたのに――。
そう思うと恐怖はやがて怒りへと塗り替えられる。
「お前さえいなければ……よくも……」
握った拳に力が入る。身を起こし、抵抗を図るマライカは理性を失っている。声を荒げ、怒りを露わにした。
四方から伸びてくる力強い腕に抵抗して身を起こすマライカは憎悪に駆られる。
「愛しのダール様の元へ嫁ぐ途中をよくも邪魔をしてくれたな、か?」
マライカはけっして敵う筈のない盗賊たちを前にして足掻く。
対するハイサムの頭はマライカの怒りを買ったことが面白いらしい。冷笑するばかりだ。
「ぼくを解放しろ!」
「断る。お前は良い金づるだ。あの男にたっぷり身代金を要求するための人質になってもらう」
男はマライカの要求をにべもなく言い捨てた。
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