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囚われの身***5

『あの男』とはおそらくダールだろうことは容易に想像がついた。  この盗賊は言い様から察するにダールに相当な恨みを持っているようだ。まさかとは思うが、この男はこうなることを計算した上で父親の積み荷を奪ったというのか。  すべてはダールへの復讐をするために……。  その男に一度でも慕情を抱いた自分が憎い。  悔しくて歯を食いしばる。 「……にしても本当に美しいな……さすがは人を魅了するオメガだけのことはある。あの男が欲っするのも無理はない、か」  男の目の奥には怪しく光るものが見える。  この目は知っている。ダホマの酒場で経験した、あの品定めをするような目だ。  よりにもよって複数の男たちに犯されそうになった自分を助けてくれた人がこのような視線を投げかけてくるとは――。  マライカは身の置き所のない屈辱感を味わう。  あんなに逢いたいと乞い願っていた初恋の相手との再会は、今やマライカにとってそうではない。眉尻を上げ、平然と座している頭を睨み付ける。  しかし男はマライカがどんなに睨もうとも構わず、骨張った長い指を伸ばし、顎に触れてきた。  長い指がマライカの唇をなぞる。  マライカが恋い焦がれていたあの人はもういない。触れられても少しも嬉しいとは思わないし、熱も感じない。  この男のせいで父親が危うく死ぬところだったことを考えると、胸が燃え立つほどの激しい憎悪が込み上げてくる。マライカは歯を剥き出しにすると若き鷲の頭である彼の指を思いきり噛んだ。

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