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明けない夜***1
Ⅲ
――ここはいったいどこだっただろうか。
マライカが目を開けるなり視界に飛び込んできたのは、見慣れない景色だった。
土壁に空けられた小さな窓からは藍色の空が覗き、美しい星々が命を燃やして瞬いている。
どうやら夜を迎えたらしい。
壁に固定されている足元のオレンジ色の明かりが、室内をほんのり照らしている。
マライカが横たわっているのは立派な天蓋つきのベッドで、しっとりとして肌心地のよいシーツは贅沢にもシルクが使われている。
シルクの上をマライカの肌が滑る。
あまりの肌触りのよさに両足を伸ばした。――その瞬間、マライカの臀部から全身に向けて鈍い痛みが走った。
はっとして身体を見下ろせば、着ていた筈の漆黒のアバヤとヒップスカーフが消え、衣服はエメラルドグリーンの長袖と腰が剥き出しになっているパンツのみになっていた。
果たしてアバヤはいったいどこへ消えたのだろうか。
たしか自分はダールの元へ嫁ぐ手筈だった。
ならばここはダールの屋敷なのかと思っても、この見慣れない広い部屋にはダールらしき男はおらず、マライカひとり。
身に覚えのないシルクのベッドに臀部にある鈍い痛み。
あまりにも不可解だ。
マライカは言葉を無くし、ただただ漠然と無防備な身体を見下ろすばかりだ。
「気がついたか」
いったいいつの間に入ってきたのだろうか。ふいに掛けられた声は男性のものだった。その人物は見るもおぞましい。
聞いたことのある低音に身を震わせ、ほぼ反射的に顔を上げた。長身の青年が漆黒の鋭い双眸が冷淡な眼差しを向けてこちらを見下ろしている。
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