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明けない夜***3

 けれども一般人のマライカがハイサムの頭を名乗るファリスに勝てる筈もなかった。どんなに憎くても、どんなに腹立たしくあろうとも、両親の庇護のもとにいたマライカは戦場での経験もないのだから。  ファリスは突きつけられた刃にも動揺も見せることなく軽々とマライカの細い手首を掴んだ。マライカの手からジャンビーアが抜ける。  重たい音を立てて絨毯の上に転がった。  その鈍い音が、ふたたびマライカを屈辱へと導く。 「無駄だ。お前の腕では俺を殺すことは愚か、傷つけることもできはしない」  一点の光さえもない漆黒の瞳がマライカを見据えるファリスは、本当に血の通った人間だろうか。彼は身を乗り出すとマライカをベッドに押しつけた。  ファリスの手が腰に触れた。マライカの素肌をなぞるようにしてパンツをくぐり抜け、みぞおちを通る。  ――また、抱かれてしまう。  覚悟した時、マライカは恐怖に支配された。全身から血の気が失せ、凍りつく……。  意識を失う前に無理矢理抱かれた当時の屈辱と、何とも言い表せない心に刻まれる空虚な喪失感。これらの感覚がマライカを襲う。深い悲しみと恐怖から悲鳴を上げることすらも忘れ、硬く目を閉ざし、現実から意識を背けた。  彼から逃げる術はマライカにない。  これから自分は全てを暴かれ、されるがままに組み敷かれて欲望を満たす玩具になるのだ。  所詮、オメガとはそういう生き物。アルファにもベータにも、いや、全人類から奴隷のように扱われて死に逝く運命なのだ。  そんなことは判っている。  いや、判っていただった。

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