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Ⅶ
ジェルザレート山脈麓の集落に囚われていったい何日が経過したのだろう。
世話係として甲斐甲斐しく動いてくれているターヘルのおかげで、マライカの衰えていた体力は少しずつ回復し、青あざは黄色みを帯びる程度にまで癒えている。
どういうわけかターヘルを寄越して以来、ファリスはマライカの元に一切姿を現さなくなった。おそらく、あの恐ろしい盗賊の頭はマライカの傷が癒えるのを今か今かと待ちかまえていることだろう。こうしている最中でもダールと取引する機会を窺っているに違いないのだ。
そうなる前に、一刻も早く囚われの身から逃れなければならない。
傷はある程度癒えている。もう痛みも殆ど無い。逃げるなら今のうちだ。
けれど……もし、自分が逃亡してしまえばターヘルの身が危険に晒されるのではないか。
ターヘルは彼らハイサムを英雄のような口ぶりで話していたが、実際の所は判らない。ファリスたち盗賊に拷問じみた体罰を受ける可能性があるのだ。
こんなにも甲斐甲斐しく働く健気な彼を、マライカはどうしても見捨てることができなかった。
窓の外を見れば、闇色に染まった空にはぽっかりと満月が浮かび上がっている。
日中は40度近くあるのに比べて日が落ちたことで過ごしやすい気温になる。――筈だったのに……なぜだろう。今夜に限って熱帯夜のように感じる。
ターヘルと共に夕食を終えたマライカの身体は、発火しそうなほどの熱に襲われていた。
これは何かがおかしい。
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