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heat***4

 頭の中で惨たらしい映像が流れている。  そんな間違いを起こさせてはいけない。  ターヘルを誘惑しないよう、一刻も早く、彼を安全な場所へと避難させなくてはならない……。  今より酷いヒート状態になれば最後、相手がアルファであれ、ベータであれ、欲情して惑わせてしまう。純粋なターヘルをけっして悪魔のような姿に変貌させてはならない。 「少し疲れただけなんだ」  こめかみから冷たい汗を流しながら、それでもマライカは懸命に笑みを作ってターヘルに話しかけた。  しかし、ターヘルはマライカの言葉をなかなか受け入れてくれる気配はない。たしかに、『少し疲れただけ』でこんなに額から玉のような汗を吹き出すのはおかしい。  けれど、それでも――。  彼にはどうにかして自分の元から去ってもらわなければならない。 「ですが!!」  今、ターヘルが直面している恐ろしい事態に彼はまだ気づいていない。  彼が心底心配している相手が、まさかこの世界でもっとも卑しいオメガだとは想像すらしていないだろう。  しかし純粋なターヘルは、マライカの正体を知っても親身に接してくれるに違いない。  この子は本当に心優しい子だ。この1ヶ月近く一緒に居たからこそ判る。だから尚のこと、今だけは傍に居てほしくなかった。 「おねが、ここから逃げて……」  喉を振り絞り、告げた言葉は弱々しくて、もはや声になっていない。掠れて夜気に溶け込んでしまった。  マライカはシルクのシーツを強く握り締め、身を焦がされるような恐ろしい疼きに耐える。

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