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ファリスという男***5

 自分から訊ねておきながら、ターヘルの意味するところがまるで判らず、マライカは目を瞬いた。  ファリスについて話す時のターヘルはいつにも増して楽しげだ。瞳を輝かせ話す少年の言葉に、マライカはますます困惑する。 「ファリスが盗賊だと都合が良いことなの?」 「これはばばさまから聞いた話なんですが、ぼくが1歳だった年に、死の疫病が流行ったそうです」 「死の、疫病……」  今でこそワクチンは完成し、難病というほどでもなくなっているが、たしかにそんな疫病が9年前の当時、流行った時期があった。  それはこのアブリヴィアンを治めている現王、ワーリー・オマール・アブリヴィアンではなく、前王の頃の話だ。  マライカもまだ幼く、物心がやっとついた時だったからよくは覚えてはいないが、このアブリヴィアンには黒歴史というものがたしかに存在していた。  疫病は汚染した空気から感染するらしく、腐敗した死体を長らく放置していた後にウイルスが活発化し、やがて抵抗力が弱い赤ん坊や老人から感染する。病状はその名の通り深刻で、42℃近くの高熱を三日三晩出し、力尽きて命を落としてしまう、死の病とされていた。  当時アブリヴィアンは発展途上国だったため他国と貿易さえもできる状態ではなく、この国は財政難に見舞われ、水路も宮殿がある大きな街のみ。辺りは今よりもずっと格差が大きく、貧しい者は食料はおろか、水さえも自由に飲めないスラム街ばかりだと聞いている。疫病はまさにスラム街で発生したものだったのだ。

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