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脱出***1
ⅩⅠ
いったいどれくらい泣き続けただろうか。マライカはこちらへやって来る人の気配にはっとして怠い身体をベッドから起こした。瞼は腫れぼったく開けにくい。どうやら自分は泣き疲れ、眠っていたようだ。
窓から見える外は少し薄暗く、夕陽はいよいよ沈みかけていた。
慌ただしい足音が聞こえる。
それに、ターヘルの静止するような声も一緒に聞こえてきた。
何故だろう、妙に胸騒ぎがする。
マライカの胸に一抹の不安が過ぎった。
「お待ちください。この先はファリスさまとぼく以外は立ち入りを許可されていません!」
「いいや、いくら何でもこれはあんまりじゃないか!」
いったい何事だろう。足音と二人の声はいよいよ大きくなった。
マライカは慌てて足元にあったブランケットを引っ張り、肩まで覆った。同時にドアは大きく開かれた。
「マライカ様、貴方様をお助けに参りました」
見たことのない青年だった。年齢は20代前半だろうか。体格はお世辞にもけっして筋肉質とは言えない。襟足までの短い黒髪に褐色の肌。細身で長身だ。目鼻立ちははっきりしていて唇は分厚い。彼には野心があるのか、目の奥は少しギラついて見える。
ターヘルのような優しい雰囲気ではないのは、やはり|若き鷲《ハイサム》だからだろう。
「貴方は?」
マライカは警戒しながらも訊ねた。
「わたしはファリス様の連絡役です。大変です。貴方のご両親がダールに拘束されました」
「父さんと母さんが!?」
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