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脱出***2
青年の言葉に、マライカの心臓が大きく跳ねた。
一抹の不安はこのことだったのだろうか。
マライカは目を瞑り、唇を噛みしめた。
「急ぎましょう。どんな目に遭わせられるかわかったものではありません! ダールとて同じ人間、マライカ様が無事であると知れば、もしかするとお二人の拘束を解いてくれるかもしれません!」
青年の言葉に、マライカが口を開けるよりも早くターヘルが発した。
「ダメです! ファリスさまはここを動くなとのご命令です! ここはファリスさまが戻って来るのを待ってから……」
「ファリス様が戻られてからでは遅いかもしれないだろう! 事は一刻を争うんだ! いくらなんでも人質の家族の命まで放っておけというのか! おれはそんなファリス様の命には従わない! ターヘル、お前も今回ばかりはファリス様の決断が間違っていることくらいわかるだろう?」
ターヘルの言葉を遮り、青年は早口でまくしたてた。
「……そ、それは」
いくらファリスに憧れを抱いているとはいえ、ターヘルはまだハイサムの一派ではない。マライカの世話係を務めているうちに、少しずつ情が移ったのだろう。しかしそれはマライカも同じだった。ターヘルを実の弟のように思っている自分がいた。
自分がダールの元へ行くことで両親を助けられるのならそれに越したことはない。
ファリスには抱かれ、夫となるダールを裏切るようなことになってしまったが、誠心誠意謝れば、もしかすると両親だけでも解放してくれるかもしれない。
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