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罠***1

 ⅩⅡ  どこからともなくやって来る風が砂漠の表面を掬う。  砂塵が舞い、視界は時折塞がれるものの、それでもこの地をすっかり熟知しているファリスたちハイサム(若き鷲)にとってはたいしたことでもなかった。  それがたとえ、自分たち味方の数よりも敵の数が多かったとしても、である。  なにせ視界が塞がれているのは自分たちだけではなく相手も同じで、しかも彼らはファリスたちハイサムよりも戦い方を知らない。ダールが雇った相手が殺し屋であったとしても、自分たちほどの戦を経験しているわけがない彼らは素人でしかない。チームワークにしろ、地の利を知り尽くしているにしろ、自分たちが負ける要素の、何ひとつとして見当たらないのだ。  (ヒサーン)の蹄の音が地響きを起こしている。地響きは少しずつ大きくなる。ファリスは彼らが向かって来ているのを感じ取っていた。  いくら相手がチーム戦を知らない素人だとしても、侮れば死を意味する。そのことを十分理解しているファリスたちハイサムは、息を張り詰めた。そして自分たちが乗る馬もまた、緊張感で張り詰めているのが判る。  ファリスは馬の頬を撫でて宥めながら、すこぶる悪い視界の中に目を窄め、前を見据えていた。  ――と、その時だった。  背後から馬の間を掻き分け、やって来る小さな気配をファリスは感じ取った。  そこではじめてファリスは前方から視線を|鐙《あぶみ》へと下ろすと、ほぼ同時にターヘルがやって来た。

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