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罠***2

 彼は肩で息をしており、額には小さな汗を浮かべている。  マライカの身に何かあったのだ。  血相を変えて走って来たターヘルの姿を見て、ファリスの胸が抉られるように痛んだ。  ターヘルはファリスが命じてマライカの監視役として側に置いておいた。その彼が血相を変えて戦場と化すだろうこの地にやって来たのだから、他に疑う余地もない。 「ファリスさま!」  息も絶え絶えにファリスの名を呼ぶターヘルからは焦燥感しか感じられない。 「ターヘルか、マライカはどうした」  どうにか平静を装い、ターヘルに訊ねるファリスだが、胸の内は真っ青な顔で視線を落としているターヘル以上の焦燥感に駆られていた。 「ダールがマライカさまのご両親を連れ去ったと知らせを受け、マライカさまが連絡役の者と一緒にジェルザレード(ここ)を出ました」 「それはどういうことだ?」  初めて知らされる内容に、ファリスは奥歯を噛んだ。  ――というのも、マライカの両親が連れ去られたという報告は一切受けたことがないからだ。  連絡係から報告を受けたあの時、ファリスが感じた嫌な予感はけっして外れてはいなかったのだ。  たしかに、ダールはずる賢い男だ。面と向かって戦うような相手ではない。  だとするならば、この場にダールがいない可能性がある。 「ファリスさま?」 「――いや。ターヘル、移動続きで申し訳ないが、もうひと働きしてくれるか?」  不安そうに訊ねてくるターヘルに、ファリスは何でもないと首を振れば、続けて口を開いた。

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