103 / 178
罠***3
「はい、ファリスさまのためなら」
良い子だ。
ターヘルはいつだってファリスたちを疑うことはない。だからこそ、ターヘルには手を汚すような行為をさせたくはなかった。
できれば、彼には素直なまま育ってほしい。人間の邪な感情を知らず、真っ白なままいてほしかった。
「今からムジーブたちの元へ向かってほしい」
「ムジーブさまの?」
「ムジーブは今、ダールの屋敷を見張っている筈だ。中で何が起ころうと、俺が良いと言うまで見張りを続けるよう、ムジーブたちに指示を頼む」
ファリスと同等の剣の腕をもつムジーブのことだ。ヘマはしていないとは思うが、長年連絡役として働いてくれていたあの男が裏切ったともなれば、気を抜いた可能性もある。
万が一にでも拘束されているようなら、ターヘルには拘束を解いてもらう必要がある。
「……ダール」
まさか奴が連絡係を飼い慣らしていたとは思わなかった。
マライカはまだダールの元に着いていないとは思うが、もし、ダールに会えばどんな仕打ちを受けるだろうか。
ファリスは夫となるダールよりも先にマライカを抱き、身体を暴いた。これはダールにとって裏切りの行為に他ならない。
もし、その裏切りの行為がダールに知られれば、マライカの命が危ぶまれる。
マライカの痛めつけられた姿が脳裏を過ぎる。
その時だ。またもや胸が張り裂けそうなほどの痛みを感じた。
この胸の痛みも、焦燥感の意味も、ファリスは既に知っている。ダールの手によって妹の命という灯火が消された時に感じたものだ。
ともだちにシェアしよう!