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罠***4
――いや、違う。あの時以上にも感じる、この深い憎悪という感情。
ああ、そうだ。
俺は、マライカを愛している。
ムジーブの言うとおり、彼をひと目見たあの時からすでに嵌っていたのかもしれない。
数ヶ月前、まだ無垢なオメガの少年をダールが狙っていると知り、酒場で彼を張っていた当時。マライカにはけっして姿は見せないつもりだった。
しかし、ごろつき共に手をかけられそうになって慌てて飛び出し、柄にもなく助けに入ったあの時から、自分はマライカに心奪われていたのだ。
できればこの感情は知りたくもなかった。認めたくもなかった。
なにせ自分は盗賊。いくら民を助けるためとはいえ、剣を握る手はすっかり汚れてしまった。所詮、どんなに憎んでいても、やっていることはダールと同じだ。命を奪うことはできても、この血塗られた手では人を幸せにすることなんてできやしないのだから。
しかしマライカは違う。彼は優しく情に溢れた人間だ。他人を蹴落とす方法さえ知らない純粋無垢な少年。
その彼が、妹と同じような運命をまたもや辿ろうとしている。
今すぐにでもこの場を離れ、ダールの元へ行き、彼を助けに行きたい。しかし、今、自分がこの地を離れれば、ますますダールの思う壺だ。
なにせダールは自分たちハイサムをけっして快くは思ってはいないからだ。
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