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罠***7
ヘサーム。ワーリー王に忠誠を誓う片腕にして、宮殿では最高位の力を持つ。かつてはファリスと同等の剣の腕を持ち、互いに背を預けた中でもあった。
その彼は、しかし今はハイサムの首領となった自分にとって敵同士でもある。その彼がこの場にいるということはつまり、自分を捕らえに来たことに違いない筈なのだが――。
ヘサームの口から出た言葉はファリスの意図しないものだった。
「ここはおれたちに任せろ。お前たちは早くダール城に行け」
「どういうことだ? それに何故、ここにいる……」
「おれは王の片腕。そして国の治安を守るのがおれたちの役目でもある。人殺し共が集まって何やら画策しているのを見過ごすわけにはいくまい」
「そしてお前には9年前の借りがある。ワーリー王から借りを返すようにも命じられている」
「余計なことを」
あの男の考えそうなことだと、ファリスは鼻を鳴らした。
ワーリー王は前王と比べて平和主義だった。言わずもがな、死の病に感染した民を隔離させ、まるで死刑囚同然のように扱った前王は、このアブリビアン中の民によって暴動が起こり、自滅した。その後の王、つまりワーリー王は民によって選ばれたと言っても過言ではなかった。
しかし、ワーリー王は平和的になりすぎる傾向があり、それ故に行動が遅れる。結果、このような残忍な悪党は逃げ果せてしまい、未だ人々の苦しみは続いている。とはいえ、この現状は好機でもある。なにせ悪党たちがこの砂漠へ一手に集結しているのだから。
「早く行け!」
ヘサームが言うが早いか、彼の息がかかった兵たちが次々に砂漠から下りてくる。
ファリスは馬に飛び乗ると、仲間を引き連れ、ダールの元へ駆けた。
《罠・完》
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