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仕組まれた出会いと策略。***2
ダールは掛けていた椅子から立ち上がる。とたんに彼の口元から笑みが消えた。
「この、裏切り者が!」
ダールはマライカが着ていたアバヤを引っ張りざま、彼の頬をひっぱたいた。同時にアバヤはマライカの身体から離れ、華奢な身体が地面に頽れる。ひっぱたかれた時に口の中が切れたのか、口内に鉄の味が広がった。頬が鈍い痛みを訴えた。
「この儂が、どんな思いでまだ開花していないオメガを探していたか。それが何だこの様は!!」
ダールは怒りのあまり顔中を真っ赤にさせ、血走った眼は、地面にひれ伏したまま動けないマライカを見下ろしている。
アバヤを失ったマライカの身体は上下に分かれた布で覆われているのみだった。剥き出しになっている首筋や鎖骨。それに腹部は情交の痕跡が艶めかしく薔薇の花びらであるかのように散っている。当然、マライカの肌に乗っているこの痕跡は夫であるダールによるものではない。敵である筈のハイサムの頭領、ファリスによるものだった。それゆえにダールは憤慨していた。
「お前を娶ったのはハイサムの小僧に触れさせるためではないぞ! 儂が快楽のすべてを教え込み、快楽の傀儡にさせようと思うたに!」
ダールは力なく頽れるマライカの胸ぐらを掴むと、二度、三度と左右の頬を打つ。乾いた冷たい音がマライカの耳に響き、同時に打ち付けられる頬が鋭い痛みを訴える。
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