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拘束・絶望と死の狭間で。***3

 どうやらヒートが高まってきている。思考が働かなくなるのも時間の問題だ。子宮が収縮を繰り返し、尾てい骨がしなる。マライカは本能的に腰を振って疼きに耐えた。  マライカの狂う姿を見物しているダールは半階の硝子越しにいるというのに、下卑た笑い声がやけに大きく聞こえた。  屈辱的な視線に笑い声。マライカの記憶に今でも鮮明に残っているダホマの酒場で起きた着ている身ぐるみをすべて剥ぎ取られようとした当時の出来事や、下卑た男たちのそれと重なっていた。  しかし、どんなに侮辱されていると思っていても、マライカの身体は熱に浮かされていく。たとえ相手が肉食獣であったとしても一度生まれたオメガの子を成すという本能には抗えない。腰を振り、性欲を満たしてくれる相手を求めて声を上げ、喘ぐ。  狼はマライカが放つオメガの甘いフェロモンを感じたのか、身を低くして鼻をひくつかせた。  果たして自分は狼に食われ血肉となるのか、それとも交えて子を成してしまうのか。  マライカの目尻から涙が溢れ、頬を伝う。しかしそれはいったい何の涙なのかはもう自分でも理解できなかった。  甘い声を上げて喘ぐ自分はなんと原始的な動物で、なんと淫猥なオメガなのだろう。  結局、自分は誰かに抱かれたいだけで、相手は人間でなくても構わないのだ。  ――いったいどれほどの時間をこうして狼と対峙していただろう。痺れを切らした狼はやがて獲物目掛けて襲い来る。同時に頭上から硝子が割れたような音が聞こえた気がしたが、マライカは目を閉じた。 《拘束・絶望と死の狭間で。・完》

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