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潜入。***2

 これは不利ではなく、むしろ好機だ。もし、奴自身がこの戦いも勝ち戦だと思っているのなら、やはりダールは愚か者なのだ。  この戦にはなんとしてでも勝ってみせる。  ファリスはこの勝利をすでに確信していた。  そう思ったのは、ムジーブがたかが連絡係一人にやられることはないと踏んだからだ。  なにしろ彼はハイサムの中で一番警戒心が強く、頭が切れる。  たとえ連絡係がダール側に付いていたとしても、ムジーブはそれを見抜いているだろう。それが3年もの長い月日を共にしていたとしても、である。  そしてムジーブはダールの行動を見張っていた。この戦に関する鍵はムジーブが握っているといっても過言ではない。  宮殿や王宮といえば、|中庭《パティオ》は必ず存在する。水路を伝えば見事な噴水があり、その噴水を讃えるように壁や柱廊で囲んでいる花壇や生け垣が設けられる。ダールの宮殿もまた、同じような造りになっていた。  見る者すべてを圧倒するパティオは、ことさら侵入者にとっても同様だ。もっとも、自分たち盗人としては外観の素晴らしさというよりも実用的かどうかという点にあるが――。  特にあの中央にある目隠しにも成り得る生け垣の素晴らしさといったら言葉では言い表せないほどだ。そしてやはりとも言うべきか、その陰の一角にムジーブたちがいた。彼らの中にはターヘルの姿も窺える。  ファリスは敵がいないのを用心深く確認するなり、屋根から平地へと下りてムジーブと合流を果たした。

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