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潜入。***4

 それなのに最近ではどうだろう。ダールに攻め込むにしても身代金の請求にしてもことごとく慎重になっていた。そしてそれはすべて、マライカが関係している。ムジーブはファリスの感情の異変を即座に理解したが、いかんせんファリスは鈍感だ。自分の気持ちに気づかない。  だが、今のファリスから察するに、どうやら彼の中に芽生えたものが何によるものなのか、彼自身ようやく理解したのだろう。 「事は一刻を争う。マライカが捕らわれた。どこに拘束されているか検討はつくか?」 「1週間前だったか。警備兵が言っていたが、奴はオークションで人食い狼を競り上げたらしい」  そのことを聞いた途端、ファリスは胸が嘔吐くような感覚に見舞われた。  もし、ダールがマライカのヒート状態を見抜いてしまえば、奴がどう動くかなんて手に取るように判る。  況してやファリスはマライカを抱いた。ダールは独占欲に塗れた冷酷な独裁者でしかない。自分の所有物が穢れたことに酷く腹を立てれば、己の気分を和らげるためにマライカを追い込むだろう。――その方法とは、たとえば所有物が狼に襲われ、恐怖で逃げ回る様を見物するとか……。  なるほど、だとすればここら一帯に警備が少ないのも頷ける。  すべてダールがいる場所に固められているからだ。 「この宮殿内に捕虜を拷問にかけるような陰湿な広間はあるか?」  意地汚いダールのことだ。演出は最大限にして余興を楽しむに違いないのだ。そう考えたファリスはムジーブに問うた。

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