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潜入。***5

「西の塔にひとつ。地下牢に繋がっている」 「決定的だな」  流石はムジーブ。彼の洞察力と行動力は敬服する。彼の頭にはこの宮殿内すべての見取り図がインプットされているのだ。ファリスは頷いた。  ――ああ、今頃マライカはどんな酷い目に遭わされているのだろうか。  行き場のない焦りがファリスを襲う。ファリスは今まで自分がこんなにも役立たずだと思い知らされたことはなかった。  なんとしででもマライカを救出したい。そして震える彼をこの両腕で抱きしめ、大丈夫だと安心させてやりたい。  ファリスは拳を強く握った。それから大きく息を吸い、部下に命じる。 「敵の目を分散させるため、ここから先も二手に分かれる。俺はダールがいる西の塔へ向かう。おそらく警備は万が一にも備えて主人の元に集結しているだろう。その隙を狙う。ターヘルと共にお前たちはありったけのお宝を盗め。ムジーブ、お前は――」  ファリスはこれからの算段をムジーブに話そうと口を開ける。 「仲間と共にこの宮殿内の財宝をひとつ残らず奪い取る。だろう? だが俺にもプライドがある。大切な連絡係には挨拶くらいしておいても問題ないだろう?」  ムジーブは仲間の裏切りによる意表を突いてみせたものの、欺かれることには頭にきているらしい。ファリスの命には従わないつもりだ。 「ダールなんか大っきらいだ!」  ムジーブに続いてそう言ったターヘルは今にも泣きそうな顔をしている。 「奴らの愚行に腹を立てているのはお前だけではないということだ」

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