どうやら自分の意思を曲げる気はなさそうだ。この頑固さはいったい誰に似たのだろう。ファリスは苦笑し、計画変更のため口を開く。 「俺とムジーブは二人でダールがいる西の塔へ向かう。残りの者はターヘルと共にダールのお宝を頂戴しろ。道中、俺たちが向かう場所以外に見張りは手薄だと思うが、くれぐれも用心するように、いいな」 「ファリスさま、マライカさまのこと。どうかお願いします」 　ファリスはターヘルへの返事の代わりに小さな頭をくしゃりと撫でると、彼は泣くまいと肘で目を拭う。なんともいじらしい姿だ。 　ファリスにとって、集落に住む民やハイサムは家族だ。そして彼自身が愛するマライカもまた、ファリスが守るべき人間の一人なのだ。 　ファリスは各々の目を見て大きく頷き、屋根の上にひたりと昇った。 　それから人通りがないのを確認すると、目と鼻の先にいるターヘルと部下に親指を立て、宮殿の中へ入るよう指示を下した。 　秒針が刻むたびに胸騒ぎが大きく肥大していく……。 　マライカが最後に『nlad01』を飲んだのは今から5時間ほど前。薬の効果が切れ始める頃でもある。 　自分の思い違いであるならいい。 　ファリスはムジーブは気配を消すと、屋根上から西の塔を目指す。 　二人は屋根から2階のバルコニーに降り立つ。見下ろせば、その下の階、中1階に、ダールと連絡役のヴァイダ。それに二人の男女が縄を掛けられ硝子を叩いている姿が見えた。