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潜入。***7

 縄を打たれている男女はマライカの両親だ。  父親は痩せ形で眼鏡をかけており、温厚そうな雰囲気をしている。  マライカは間違いなく母親似だ。彼女の艶やかな黒髪も、華奢な身体や中に秘められた芯の強さも瓜二つだ。彼らの必死な様子からして、愛するたったひとりの息子はあの硝子に阻まれた向こう側にいるらしい。 「それでどうするつもりだ?」 「乗り込む」  ファリスはムジーブの問いに答えると同時にバルコニーから身体を投げ出し、勢いよく中1階の硝子を蹴破った。  割れた硝子と共に侵入してきた人物に驚いたのはヴァイダとダールだ。なにせ自分はスーリー砂漠でダールが雇った殺し屋たちと刃を交えている筈なのだから。その男がまさか戦いを放棄して宮殿に乗り込んでくるとは思いもよらなかっただろう。 「なっ! ファリス!!」  ダールの顔はのべっとしていて蛇のような視線も相変わらず気にくわないが、驚いた顔を見るのは気に入った。 「お、お前はムジーブ!」  ファリスは内心にやりとした。その後に押し入ってきたのはムジーブだ。驚く連絡係を他所に、ムジーブは鼻で笑ってみせた。 「毒を飲ませ川に投げ捨てた気でいたらしいが、生憎だったな。俺は生きているよ」 「馬鹿な! あらゆる凶悪犯と儂の兵もありったけ送り込んだはずだ!」  ダールの言葉にファリスは、「ああ」と頷いてから、「だからここの見張りがもぬけの殻だったのか。おかげで侵入しやすくて助かったよ」と口にした。

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