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盗賊の成れの果て。***2

「良かったのか、彼を連れて戻らなくても」  背後に立つムジーブがファリスに訊ねる。ムジーブが話すが誰を示しているのかはファリスもよく判っていた。 「あれはダールを陥れるために盗んだ、ただの道具にすぎない」  ――そう。ファリスにとって、マライカ・オブレウスはそのためだけに盗んだ道具。それ以上でもそれ以下でもない。  当初の目的はダールを陥れるため。妹を死に追いやったダールへの復讐劇。すべてはその筈――だった。ダールが血眼になって手中に治めようとしていた宝を横取りし、奴を陥れる計画。  それこそがファリスのたったひとつの願いであり、やり遂げるべき目的だったのだ。  しかし、いつの日からか、ファリスの目的が変化しつつあった。  ダールの毒牙から妹を守りきれなかった代わりに、たったひとりのオメガを守り抜くことばかりを考えるようになっていた。  世間では劣等種と蔑まれるオメガの性に生まれた彼の立場は誰よりも弱く、脆い。それでも少しも擦れない彼の性格はファリスにとって新鮮だった。  本当は誰よりも泣き虫な癖に、盗賊の頭と対面しても臆することなく立ち向かう勇気。訪れる不幸に飲まれまいと気丈に振る舞う姿はファリスの保護欲をくすぐった。  家族以上に守りたいと思った人間はマライカを置いて他は誰もいないと言えよう。

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