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盗賊の成れの果て。***3

 ダホマの酒場で彼を見初めた時から完敗だった。光を宿したはしばみ色の大きな目と華奢な身体はファリスに熱を灯した。どんな女よりも純粋で健気なところや、頬を染める初心な表情――澄んだ眼の奥に自分を貫き通す芯の強さに、気丈に振る舞う中にも脆い部分が垣間見えたり……何もかもがファリスの心を捉えて離さない。  今だって、ファリスの身体だけでなく、心すらもマライカを求めている。何度抱いても抱き足りないほどに……。  しかし、自分は所詮大盗賊の頭領。心優しいオメガと釣り合う筈がない。  ファリスではマライカを幸せにしてやることはできないのだ。  マライカには、ダールによって運命を弄ばれ、苦悩を虐げられた分、せめて今後は心穏やかに暮らしてほしい。  ならばせめて、自分は彼から手を引こう。自分という余計な火の粉が付かないよう、一切の関わりを断ち切る。それこそが彼にしてやれる唯一にして最善のことなのだ。  マライカならば、きっと良き伴侶が見つかる。何より、息子を溺愛している両親が彼に見合った伴侶を見つけるに違いない。相手はマライカのみを愛し、そしてマライカもその愛に応えるだろう――。 「少し前なら欲しい物は奪ってでも手に入れたお前が……変わったな」  たしかに、マライカを知る前なら欲するものすべてを手中に治めなければ気が済まなかっただろう。  しかし、それではファリスの心は満たされない。マライカの心からの笑顔こそ、ファリスの心のよりどころになるのだから……。

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