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もう二度と。***2
マライカがこの酒場で働く理由はただひとつ。今でも想っている彼と繋がっていられるような気がしたからだ。ファリスとはもう二度と会えない。それでも、もしかしたらと微かな希望さえも抱いてしまう。奥に広がる木々の陰に隠れて自分を見ているのではないかと期待さえしてしまう。そんな都合の良いことなんて起こる筈がないとは思っている。
けれども頼れる人がいない今のマライカにとって、それだけが心のよりどころだったのだ。
相変わらず酒場は賑やかだ。マライカはいつものようにオーダーが入った客にジョッキを持ち運び、手渡していく。
二酸化炭素が多く感じられるのはそれだけ人の密度が高いからだろう。人々の熱気に圧されて吐き気が伴う。嘔吐きそうになるのを必死に堪える。込み上げてくる胃液を喉の奥に押しやり、一心不乱で働いていた。
今夜もいつものように溢れんばかりのアルコールが入ったジョッキを運ぶマライカの耳に、ある単語が聞こえた気がして立ち止まった。初めは気のせいかとも思ったが、またその単語が聞こえて周囲を見渡す。
マライカは聞こえてきた声の主を探した。入口に近いテーブルに向かい合い座っている3人組の男性客だ。
喧噪の中で耳を澄ます。
「いよいよ公開処刑だってな」
「ああ、明後日だろ? 俺もこれで枕を高くして眠れるってもんよ」
(誰が? 誰を処刑するの?)
口の中が一気に乾いて唾液がなくなる。マライカの心臓が激しく鼓動していた。
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