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第11話

 1ー11 お袋  「いいですか?セツ」  遠退いていく意識の中で、俺は夢を見ていた。  夢の中で俺は、自分の家の茶の間でお袋を前にして正座していた。  俺たちの間には、古びたちゃぶ台があり、その上には湯気の立つお茶が入れられた湯呑みが置かれていた。  あっ。  俺は、その湯呑みの中に茶柱が立っているのに気付いた。  ラッキー!  きっと、今日は、なんかいいことがあるぞ。  「あなたには、私の実家の再興のために我が故郷ルージナルスへ行ってもらいます」  はい?  俺は、急な話にハトマメ状態でお袋を見た。  「ルージナルス?」  「ええ」  お袋がにっこりと微笑んだ。  「そう。ルージナルスです」  俺は、このとき、まだそれをヨーロッパかアメリカ辺りのどこかにある国か街の名だと思っていた。  「別にいいけど、でも、すぐには無理だよ」  俺は、お袋に返答した。  「俺にだっていろいろ都合ってもんがあるんだから。でも、夏休みに入ってからならいいけど」  そう。  俺にも、用事がある。  今、活動しているバンドのライブもあるし、コンビニのバイトもある。  忘れるとこだったけど、大学だってあるんだし。  俺もそんなに暇じゃない。  「お黙り!」  お袋がぴしゃりと言った。  「20年。あなたを産んで育ててあげた私を落胆させないで、セツ」  俺は、ピタリと口を閉じた。  こういうときのお袋に反抗するのはあまりすすめられたことではない。  基本的にうちのお袋は、おっかない。  顔がではない。  性格というか、その持っている思考がおっかない。  凄みのある美魔女ってこともあるんだが、やっぱりまとっている雰囲気が1番の原因だと思う。  なんというか、うちのお袋は、どこかの古い家の奥様みたいな威厳があるんだよ。  といっても別にお袋が俺や親父、妹をバカにしているとか言うわけではない。  もちろん、嫌っているってことでもない。  お袋は、照れ屋だが普通に優しいお袋だし。  なんなら、いい親だといってもいいと思う。  ただ、少し自分の感情を表に出すのが苦手な人なだけだ。  ちょっときついけど、俺や妹を頭顎なしに叱りつけたり、命令したりする人じゃない。  

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